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治療法について

腎臓病にはさまざまな種類があり、それぞれ原因や進行度が異なります。それぞれの原因や進行度にあった治療法を行うことが大切です。


急性腎不全

急性腎不全は、何らかの原因によって腎臓の機能が急速に低下し、老廃物がうまく排出されなくなった状態です。腎機能の回復が見込める場合があります。治療は、急性腎不全となった原因に対するものと、腎不全から回復するまでの腎不全期の管理の2つからなります。
1.原因に対する治療腎前性と腎後性の急性腎不全および腎性腎不全のうち急速進行性糸球体腎炎や間質性腎炎によるものでは、補液、尿路閉塞の解除、原疾患に対する治療などにより腎機能の早期回復が期待できます。ただし、原因に対する治療を行わなければ自然回復は期待できず、慢性腎不全となります。従って、上記の原因による急性腎不全では原因を除去することが治療の中心となります。治療の効果が出るまでの間、腎不全期の管理を行う必要があります。

一方、尿細管壊死による急性腎不全の場合、原因を除去してもすぐには腎機能は回復しません。また、急性腎不全の程度を軽減させたり、回復を促進させたりする有効な手段はありませんが、原因を除去しておくことで腎機能の自然回復が期待できます。このため、原因に対する治療法よりも腎不全期の管理が治療の中心となります。
2.腎不全期の管理腎不全の管理を目的とした治療は、
食事療法、薬物療法、血液浄化療法の3つからなります。

食事療法

食事療法は急性腎不全において最も重要な治療法のひとつです。急性腎不全は、発症期→乏尿期→利尿期→回復期という流れで経過し、その時期によって食事制限の内容が異なります。適切な栄養管理が重要ですので、医師や管理栄養士などから詳しい説明を受けてください。

基本的には、腎臓の負担を減らすために、十分なエネルギーの確保(1,800kcal以上/日)と塩分やタンパク質の制限が必要です。一般的な数値を表にまとめました。実際の基準量は必ず医師の意見を求めてください。
乏尿期利尿期回復期
タンパク質体重1kgあたり0.2g体重1kgあたり0.5g体重1kgあたり1.0g
塩分(ナトリウム Na)禁止3~5g/日3~7g/日
カリウム(K)特に厳しく制限制限あり制限あり
リン(P)制限あり制限あり制限あり
水分前日の尿の量プラス500g/日医師の指示制限なし

食事療法を無理なく続けていくためには、タンパク質を低く抑えてある市販の食品(タンパク調整食)や、塩分、カリウム、リンなどを調整した食品、エネルギーを補うための治療用特殊食品などを利用する方法もあります。

薬物療法

発症期には利尿薬、昇圧薬、降圧薬など、乏尿期には利尿薬、抗生物質、制酸薬などが腎不全の原因や患者の状態に応じて使われます。急性腎不全患者の中には利尿薬に反応して尿量が増加することがよくあります。そうなると、水分やナトリウムの管理が容易になるため有効な治療法のひとつです。しかし、尿量減少の原因が体液量の減少である場合に利尿薬を投与すると脱水を強める場合もあるため、利尿薬の投与前には体液量の評価を十分に行う必要があります。

血液浄化療法

食事療法や薬物療法で高カリウム血症や過剰な水分の蓄積などが改善しない場合は、一時的に血液浄化療法が行われます。

慢性腎不全(保存期)

慢性腎不全では、失われた腎臓の機能が回復する見込みはほとんどないため、治療目標のひとつは、慢性腎不全の進行を予防し、少しでも透析療法への移行を遅らせることです。治療は、薬物療法、食事療法のほかに日常生活での心がけも必要となります。もうひとつの治療目標は合併症の予防です。慢性腎不全の進行に伴ってさまざまな合併症が現れる可能性があります。例えば、慢性腎不全によって高血圧が持続するような場合は、心臓病や脳卒中など生命にかかわる合併症の原因となります。また、不適切な食事療法などを行うと骨がもろくなるなどの合併症が現れます。慢性腎不全の治療では、このような合併症が現れないようにすることも大切です。

薬物療法

腎不全を治す特効薬はありません。降圧薬、利尿薬、リン吸着薬、カリウム吸着薬、エリスロポエチン製剤、ステロイド・免疫抑制剤、漢方薬などを使って、慢性腎不全の進行を遅らせたり、合併症を予防したりします。

食事療法

食事療法では、十分なカロリー摂取、タンパク質の制限、塩分制限、カリウム・リンの制限、適切な水分量の摂取の5つがポイントです。
これらの程度は、慢性腎不全の原因となった病気(原疾患)や合併症、年齢などによって異なるため、医師や管理栄養士などから適切な指導を受けましょう。

低タンパク食を始める目安は、Ccr(クレアチニン・クリアランス)が70ml/分以下の進行性を示す慢性腎不全の場合といわれています。
しかし、タンパク質を制限するとどうしても全体の食事摂取量が減少し、総摂取エネルギーまで低くなってしまいます。総摂取エネルギーが低い状態が続くと、体全体の栄養状態が悪くなり、体内のタンパク質(おもに筋肉)が崩壊し、腎機能が悪化したり、血液中のタンパク濃度が低下したり、貧血が悪化したりします。
このため、少ない摂取タンパクをより有効に利用するためには十分なエネルギー摂取が必要です。実際にはとても難しいので、粉飴やデンプン餅、低タンパク米などの特殊食品をうまく利用したり、1日1回は油を使った料理を食べる、3食きちんと食べるなどの工夫をするとよいでしょう。

腎臓機能の悪化が進行している場合、タンパク質の摂取量は標準体重1kgあたり0.8g未満が目安です。
タンパク質の計算の仕方標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22

ただし、ほかの病気を合併している場合や腎臓の状態によっても異なります。タンパク質の摂取量については主治医に確認しましょう。塩分の摂取量は6g/日以下を目標としましょう。一般に低タンパク食はカリウムやリンの含有量も低いことが多いので、カリウムやリンの制限も同時に行えます。逆に、低タンパク食にすることで、カルシウムや鉄は欠乏する可能性が高いです。カルシウムを通常の食品で補おうとすると、タンパクやリンが過剰に摂取されるので、炭酸カルシウムなどのカルシウム製剤で補う場合もあります。また、鉄については食品の選び方に気をつけて、欠乏症を防ぎましょう。

日常生活での心がけ

日常生活では過激な運動を避ける、疲れをためない、風邪などの感染症に注意する、冷えないようにする、嗜好品の摂取はほどほどに、食事に注意するといったことに気をつけましょう。仕事をされている方では、長時間立ったままの仕事、炎天下や寒冷下での仕事などは体に負担がかかりやすいです。また、休憩時間に少し横になる、早めに就寝して十分な睡眠を取るなど、時間があれば体を休めることが大切です。下痢・嘔吐などによる脱水を予防する、怪我に気をつけることも大切です。食事はタンパク質と塩分の制限、摂取エネルギー量へ注意をはらいましょう。

日本腎臓学会による生活指導のガイドライン(下表1)では、日常生活の具体的な内容を盛り込んだA~Eの5段階の生活指導区分を知ることができます。
表1:成人の生活指導区分表(日本腎臓学会のガイドライン)
指導区分通学・通勤勤務内容家事学生生活家庭・余暇活動
A:安静
(入院・自宅)
不可勤務不可
(要休養)
家事不可不可不可
B:高度制限30分程度
(短時間)
※できれば車
軽作業
勤務時間制限

残業、出張、夜勤不可
(勤務内容による)
軽い家事
(3時間程度)
買い物
(30分程度)
教室の学習授業のみ
体育は制限
部活動は制限
ごく軽い運動は可
散歩
ラジオ体操程度

(3~4メッツ以下)
C:中等度制限1時間程度一般事務
一般手作業や機械操作では深夜、時間外勤務、出張は避ける
専業主婦
育児も可
通常の学生生活
軽い体育は可
文化的な部活動は可
早足散歩
自転車

(4~5メッツ以下)
D:軽度制限2時間程度肉体労働は制限
それ以外は普通勤務
残業、出張可
通常の家事
軽いパート勤務
通常の学生生活
一般の体育は可
体育系部活動は制限
軽いジョギング
卓球、テニス

(5~6メッツ以下)
E:普通生活制限なし普通勤務
制限なし
通常の家事
パート勤務
通常の学生生活
制限なし
水泳、登山、
スキー
エアロビクス

また、指導区分の内容に家庭および余暇活動の運動強度を加味し、活動度の目安をメッツ(Mets)で表したものが表2です。メッツは運動強度の指標で、安静時酸素消費量(3.5ml/kg/分)を1メッツとして、実際の日常生活や運動時はその何倍の酸素を消費するかにより運動強度を示すものです。
表2:メッツ表
1メッツ安静
2メッツ入浴、選択、調理、ぶらぶら歩き、ボウリング、ヨガ、ストレッチ
3メッツ掃除、普通歩き、ゲートボール、グラウンドゴルフ
4メッツ庭仕事、少し早く歩く、日本舞踊、ラジオ体操、水泳(ゆっくり)、水中ウォーキング
5メッツ農作業、早歩き、卓球、ダンス、ゴルフ、スケート
6メッツジョギング、水泳、バレーボール
7メッツ登山、階段を連続して昇る、サッカー、バスケットボール
8メッツランニング(150m/分)、ハンドボール、競泳、縄跳び、エアロビクス(激しい)
9メッツランニング(170m/分)、階段を早く上る、サイクリング(20km/時)
10メッツランニング(200m/分)、マラソン、柔道、相撲、ボクシング

食事療法や日常生活での注意によって、腎臓の機能をできるだけ長持ちさせることが大切です!

末期腎不全(透析期)

日本腎臓学会の調査によると、国内で約1,330万人と推定されている慢性腎臓病(CKD)患者のうち、1年間で約3万8,000人(日本透析医学会2012年末調査結果から)が末期腎不全に陥り、透析療法を受けています。末期腎不全の治療法には、腎臓の働きの一部を補う腎代替療法と呼ばれる血液透析腹膜透析、そして根治療法の腎移植の3つがあります。また、血液透析では標準的な血液透析療法以外にもいくつかの選択肢が存在します。治療法としてはどれか1つを選択することになりますが、それぞれの療法のメリット、デメリットをよく理解した上で判断することが大切です。

血液透析、腹膜透析、腎移植をうまく利用することで、QOL(生活の質)を充実させた有意義な人生を長く送ることが可能です。1つの治療法を長く続けることは、その治療法のメリットを生かすことにはなりますが、長期的にみるとデメリットが増幅され、そこから生じる合併症が重篤化する危険性があります。理想としては長い療養生活の中で3つの療法すべてを行ってみることですが、実際には日本では血液透析を選ぶ患者が圧倒的に多く(2012年末で全透析患者の96.9%)、腹膜透析(同3.1%)、腎移植(年間 献腎移植170例程度、生体腎移植1,400例程度)となっています。

腎移植は、ほかの人の腎臓を体の中に移植することで、腎臓の働きを回復させる治療法で、末期腎不全の唯一の根治療法です。